市民節電所

何故いま、省エネ・節電?

地球温暖化が進んでいます。2050年までに2℃以内、できたら1.5℃に押さえようという国際的合意、パリ協定が2015年に採択され、今世紀後半には温室効果ガス排出実質ゼロを目指す脱炭素社会へ大きくカジが切られました。
日本でも2020年10月に大きく踏み込み、50年までにカーボンニュートラルを目指すと公表しました。家庭部門に関しては2030年までに2013年比39%削減するという目標が、66%削減に引き上げられました。しかし2013年のCO2 排出量が1990年に比べ50%も増加している過去の実績か ら見ても高いハードルです。

なぜ、市民の省エネは進まないのでしょうか? 理由はいろいろあると思います。
例えば、市民が省エネ・節電の必要性を認識していなかったり、認識していても充分でなかったり。
認識があっても省エネ行動に向かない。
行動に向いても、その方法が分からないなどで効果が上がらず、継続できていません。
また市民に対して、啓発、活動支援、情報提供が不十分であったり、身近な適切な目標設定がない。
市民の省エネ・節電行動に対してインセンティブがない、等などいろいろ考えられます。
重要なことは適切な政策が実施されていないともいえます。
そこでこれらを解消できる方策として、市民との省エネ・節電を進める「市民節電所」を提唱します。

それを実施し有用性を示すことです。その状況を以下に示しますが、市民の省エネ・節電には「市民節電所」が切り札になれることを示します。

市民節電所とは

市民の省エネ・節電が進まない理由を踏まえて、提唱するのが「市民省エネ・節電所(略して、市民節電所)」です。
市民節電所とは、省エネ等に関心のある市民が集まったグループと事務局が役割を明確にし協定を結び、情報交換や経済的手段を使い省エネ・節電、さらにCO2排出削減の実を上げる仕組み、あるいは取り組み、またはそれをする団体を「市民節電所」と呼ぶことにします。
この市民節電所の名前は、節電によって生じる余剰電力は発電所を新しく建設することと同じ価値があるという考えから節電所、あるいはネガワット(negawatt)と呼ばれる[注]ことに因みます。
発電所建設には大きな施設と設備などハードが求められ、多額の資金と長時間の準備が必要ですが、節電所(省エネ・節電所と言うべきですが、こう略します)ではそのような大きなハードも多額の資金も必要とせず、短時間の準備でスタートできます。
[注] ベーター・ヘニッケ、ディーター・ザイフリート、朴勝俊訳(2001)『ネガワット 発想の転換から生まれた次世代エネルギー』省エネルギーセンター。

市民節電所の理論的裏付け

提唱する「市民節電所」には、省エネ・節電に向けた「市民グループの自主的取り組み」を中心に据 え、これを環境政策でよく使われる3つの手段「協定」、「情報的手段」、「経済的手段」のポリシーミックスで支援するという4つのポイントがあります。



  1. 市民グループの自主的取り組み
    市民節電所の活動のベースはボランタリー(自主的、自立的)で、他からの強制はありません。
    そのた め市民の自主的な省エネ・節電の活動を中心に据えています。
    参加は、世話役1名を含んだ数名からなるグループ(節電所と呼ぶ)を作って次の協定を結んで参加 します。
    それにより参加に難しさがありますが、参加した後は、活動を続けるという力が働くとともに成果を上げやすくなりますし、活動にかかる費用(取引費用)を安くすることが出来ます。
    また、個人では既存の節電所に加わることはできます。
  2. 協定
    市民(グループ)と事務局はお互いの役割を明確にし協定を結び、一年単位の活動をスタートします。
    この役割についても協議し変更することはできます。「まほろば」では、次の内容になっている。
    1. 市民の役割
      1. 市民は5~10名で節電所を作り、当ネットワークと協定を結ぶ。
      2. 節電所で1年間省エネ・節電に取り組む。その間、毎月今年と前年の電気・ガスの使用量を報告 する。
    2. 事務局の役割
      1. 事務局を当ネットワークが担当し、省エネ・節電に役立つ情報を適宜提供する。 情報誌「まほろば」を年3号発行、年2回情報交換の場提供やセミナー開催などで支援する。
      2. 1年間の取り組み後、節電所が1年間で削減できたCO2削減量(電気・ガスの使用量から算出 する)、CO2 1 kgあたり 2円(現在は3円にアップされている)で買い取る。

  3. 情報的手段
    取り組みを継続させ成果を上げるため、情報的手段は重要です。それは2つに別れ、その1つが情報提供で、セミナー開催や会誌あるいは情報誌の発行があります。
    もう1つが情報交換で、節電所のメンバーは世話役を通して、月々の電気・ガス使用量を事務局に報告する。事務局がこれらを集計し、解析し、節電所にフィードバックします。また経験が豊かな、削減ノウハウを持った仲間から、そうでない仲間に伝達えることが大事で、全体の情報交換会や、各節電所内での交流も大事です。
    また、省エネ・節電についての事例集積が大事で、「まほろば」では「家庭でできる省エネ・節電事例集」2巻をを作成し、メンバーで共有しています。
  4. 経済的手段:カーボンクレジットの買取で
    経済的インセンティブとして1年間の取り組みで、削減できた電気・ガスの使用量から算出したCO2削減量を事務局が買い取る。ただ実際の電気・ガス使用量削減による料金支払額の減少の方が市民節電所で受け取れる額より10数倍大きい。
    「なぜCO2削減量を買い取るか?」「その資金はどこから来るのか?」とよく質問を受ける。これは買い取るCO2削減量には社会的に価値があるからで、「カーボンクレジット(CC)」と呼ばれています。国際的に行われている排出量取引や、最近話題となるカーボンプライシングと類似しています。
    CO2削減量買い取りは少額でも価値があるので対価を支払う。報償ではないので、社会の限界費用のように、なるべく適正な額に設定するように努めています。額は少ないが参加者の励みにはなっている。また省エネ・節電をしない人と比べ、報われていないという思いに応えることであり、フリーライド問題の解消になり、公平性を保てます。


市民節電所の実証的評価

市民節電所を実証的に評価するため、それを具体化し、市民節電所「まほろば」の取り組みを5年間実施しています。その活動の詳細は、「市民節電所で省エネ・節電しようhttp://mahoroba.negawatt-nw.c om) に譲りますが、概要を以下に紹介する。

①「まほろば」の活動状況

2016年に開始、どこの市民でも5名集まりグループ、約90世帯が活動している。
その間途中脱落者ゼロで、多くが6年7 年と続けている。全体としては7,000世帯・月を超えた。

②「まほろば」活動の実績

まほろば全体の電気およびガス使用によるCO2排出量は、第5期(2020年6月~21年5月)の増加以 外削減でき、7年間の削減総計は8.4トンとなった。
全体のCO2実質削減量は72.7トンとなった。

③「市民節電所」の課題と解消

「まほろば」の活動を長く続ける中で、買取資金問題、長期の取り組みの壁、コロナ禍の影響が問題になってきたが、解消できることが分かった。

ビジネスモデル「市民節電所」

市民節電所は、それを具体化した「まほろば」の8年間に及ぶ活動で、市民の皆さんと省エネ・節電、CO2排出削減を目指せる、国内初の方策であることが実証出来ました。それにより、資金を問題せずに、長期間の取り組みができることで、ビジネスモデルが備えるべき条件を満たしていると言えます。
ビジネスモデルの重要な要素は、①顧客セグメントと②提供価値、③お金の流れと④コストの構造の4つがあると言われています。平易に言うと「誰」に「何」を提供するか、そして必要な「コスト」に対し「お金が入ってくる構造」はあるかです。
市民節電所「まほろば」の活動では、①顧客セグメントは市民のグループ(とくに省エネ・節電あるいは地球温暖化防止に関心がある市民)で、②供給価値は、市民としてすべき省エネ・節電、CO2排出削減を効果的かつ長期に実施できることです。その対価として顧客は月々の電気・ガス使用量のデータや削減できたCO2排出量(カーボンクレジット)を提供します。これが③のお金の流れです。
その間に必要なコストは「まほろば」の場合無償のボランティア活動に負うところが多く、それに耐える活動だと言えます。事業費は少なく、この8年間は寄付と会費、助成金で充分賄えています。
この「まほろば」活動がビジネスモデルと言えることは、市民の省エネ・節電を促すべき立場の行政やNPO法人などにとってもビジネスモデルであり、取り組み易い事業であると言えます。

市民節電所の評価

①市民節電所の高い外部評価

令和3年度気候変動アクション環境大臣表彰を受彰した。
低炭素杯では2017年全国大会の出場者に 選らばれ出場し、2017年には優秀賞、その後継賞、脱炭素チャレンジカップでは奨励賞を2020、21、23、 24と4回受賞した。
環境省のグッドライフアワードでは実行委員会特別賞を2015,16,17年の3年連続で受賞した。
本活動に関し、理事長個人名であるが、平成28年度地球温暖化防止活動環境大臣表彰を、また令和2 年度環境カウンセラー地域特別貢献賞を受賞した。

②学会での評価 環境経済・政策学会年大会で発表

2012年大会(於:東北大学、2012年9月15日)で、村木正義・松本友宏「市民の省エネ/CO2排出削減 への取り組みを支援するポリシーミックス」を口頭発表した。
2014年大会(於:法政大学、2014年9月13日)で、村木正義「市民の省エネ/CO2排出削減への取り組みを永続的に支援する一施策~節電所ネットワークによる」を口頭発表した。

③学術誌への投稿

村木正義(2015)「市民の省エネ・節電/CO2排出削減を効果的・永続的に支援する一方策~国内初の仕組みを使った節電所ネットワークによる~」地域創造学研究XXV(奈良県立大学研究季報第5巻第 3号)1-38ページ
村木正義(2021)「市民による、省エネ・節電/CO2排出ゼロを実現する方策~国内初「市民省エネ・節 電所」活動」地域創造学研究49(奈良県立大学研究季報第31巻第3号)37-60ページ

④活動助成

セブンイレブン記念財団の2019,20,21,23年度助成を受けています。
大阪コミュニティ財団の2017年度助成を受けた。
奈良県の地域貢献活動サポート基金より23年に助成金を受けた。

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